【2022年10月施行】社会保険の適用対象拡大の要件や対応方法について

2022年10月から社会保険の適用対象が拡大されます。従業員を雇用している企業は、これまでと異なる対処をしなければならない可能性があるので、制度改正について正しい知識をもって対応しましょう。

今回は2022年10月に施行される社会保険制度の適用対象拡大について、弁護士が解説します。

1.社会保険とは

社会保険には広義の意味と狭義の意味があります。
広義の場合、会社員や会社役員などが加入する以下の保険を意味します。

  • 健康保険
  • 厚生年金保険
  • 介護保険
  • 雇用保険
  • 労災保険

狭義の場合、上記のうち「健康保険」と「介護保険」、「年金保険」を意味します。

  • 健康保険…病気やケガなどをしたときに医療費の補助を受けられる保険です。
  • 厚生年金保険…高齢になった場合や障がい者となった場合などに年金を受け取れる保険です。
  • 介護保険…介護が必要となった場合に介護にかかる費用の助成を受けられる保険です。

なお雇用保険と労災保険はまとめて「労働保険」とよばれるケースがあります。労働保険の内容は以下の通りです。

  • 雇用保険…労働者が失業した場合などに生活費や再就職にかかる費用などの助成を受けられる保険です。
  • 労災保険…労働者が業務に起因してケガをしたり病気にかかったり死亡したりした場合などに補償を受けられる保険です。

2.2022年10月から社会保険の適用対象が拡大する

2022年10月からは、制度改正によって狭義の社会保険の適用対象が拡大されます。
2020年5月に成立した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」(年金制度改正法)が2022年10月に施行されるためです。
なお今回適用対象が拡大するのは「健康保険」と「厚生年金保険」の狭義の社会保険です。

具体的にどのような人が適用対象になるのか、みていきましょう。

2-1.これまでの社会保険の適用対象

まずは従来の社会保険の適用対象を確認します。
社会保険は従前、週30時間以上働く労働者にのみ適用されてきました。適用対象の多くはいわゆる正社員だったのです。
ただ雇用形態が多様化してパートやアルバイトなどの従業員が増え、そういった短時間労働者たちも保護する必要性が高まったので、これまでにも社会保険の適用対象は何度か拡大されてきました。

2-2.2016年10月1日の改正

2016年10月1日からは、以下の要件を満たす人にも社会保険が適用されるようになりました。

  • 週20時間以上はたらいている
  • 賃金の月額が8万8千円円以上
  • 1年以上勤務を継続する見込みがある
  • 学生以外

この時点での適用対象は「常時、従業員が501人以上の会社」です。社会保険の適用対象となる従業員(被保険者)が501人以上の会社を「特定適用事業所」とよびます。

2-3.2017年4月1日の改正

2017年4月からは、以下の要件を満たす場合にも会社が従業員を社会保険へ加入させられるように制度変更されました。

  • 従業員が500人以下
  • 労使の合意があって届出を行った

つまり特定適用事業所ではなくても労使の合意があれば、短時間労働者を社会保険へ加入させることができるようになったのです。
従業員(被保険者)が500人以下でも社会保険を適用させられる事業所を「任意特定適用事業所」といいます。

2-4.公務員の共済年金と会社員の社会保険の一元化

従来、国や地方公共団体に勤務する公務員は共済年金に加入していましたが、2015年10月1日からは「被用者年金一元化法」が施行され、厚生年金と共済年金が一体化されています。

3.2022年10月の社会保険適用拡大の内容

2022年10月には、さらに社会保険の適用対象が拡大されます。
日本では少子高齢化が進み国民のワークスタイルも多様化し、小さな事業所であってもそこではたらく人を社会保険に加入させて保護する必要性が増加したためです。

これまでは社会保険が適用されなかった中小零細企業ではたらくパートやアルバイトなどの短時間労働者も、一定の要件を満たせば社会保険の適用対象となります。

社会保険へ加入できるとケガをしたり病気にかかったりしたときに傷病手当を受け取れますし、出産の際には出産手当を受け取れたり、国民年金よりも年金額が増額されるなど、労働者はさまざまなメリットを受けられます。

今回の法改正による社会保険適用の拡大では、これまで社会保険の適用対象にならなかった「101人以上500人未満の企業」に対しても、一定の要件を満たすパートやアルバイトなどの短時間労働者を社会保険に加入させる義務が課されます。

4.2022年10月から社会保険適用が義務付けられる企業や従業員の要件

2022年10月から、具体的にどういった従業員について社会保険加入義務が生じるのか、要件をみていきましょう。

4-1.社会保険の適用が拡大される企業の要件

2022年10月からの制度改正によって短時間労働者への社会保険適用が義務付けられる企業の要件は「常時101人以上の従業員(被保険者)を雇用すること」です。

これまでは「常時501人以上」の従業員を雇用する場合に義務づけられていましたが、今後は「常時101人以上」の従業員がいたら社会保険を適用しなければなりません。

4-2.社会保険の適用が拡大される短時間労働者の要件

2022年10月から社会保険の適用対象となる従業員は、以下の要件を満たす人です。

  • 週20時間以上はたらいている
  • 賃金の月額が8万8千円円以上
  • 2か月以上勤務を継続する見込みがある
  • 学生以外

従来は「1年以上勤務を継続する見込みがある」労働者が適用対象でしたが、改正によって「2か月以上勤務を継続する見込みがある」人にも拡大されました。
つまり勤務期間の要件が緩和され、1年から2か月へ短縮されたのです。

労働時間や賃金の考え方

上記でいう「労働時間(週20時間以上)」は従業員と会社との「契約上の労働時間」です。残業によって増えた労働時間は含まずに計算しましょう。
「賃金(月額8万8千円以上)」についても残業手当や通勤手当などは含まずに計算します。

適用対象の従業員を判断する際、間違えないように注意してください。

社会保険未加入の罰則

社会保険の適用対象となる従業員を雇用する場合には、届出を行わねばなりません。
加入が義務付けられているにもかかわらず社会保険に加入させないと、雇用者に罰則が適用される可能性もあります。
罰則の内容は「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」です。刑罰を受けると前科がついてしまうので、くれぐれもそういったことのないよう慎重に対応しましょう。

2020年10月からは適用対象が拡大されるので、これまでとは判断基準が異なってきます。適用対象の従業員の選定を間違わないように注意しつつ、該当する従業員がいたら速やかに所定の届出を行いましょう。

4-3.2024年10月1日からの変更点

社会保険の適用対象拡大は、段階的に行われます。
2022年10月1日から施行されるあらたな社会保険制度では、常時101人以上の労働者を雇用する場合に拡大されました。2024年10月1日からはさらに適用対象が広がります。

具体的には「常時51人以上の労働者を雇用する企業」にも社会保険制度が拡大されるので、該当する企業は今のうちから心積もりをしておきましょう。

なお従業員側の要件については2024年10月1日の改正による変更はありません。

5.特定適用事業所の要件

今回の法改正により「特定適用事業所」の要件も変わります。
特定適用事業所になったら所定の手続き(届出)を行わねばなりません。
以下で特定適用事業所とは何か、該当する場合に何をすれば良いのかお伝えします。

5-1.特定適用事業所とは

特定適用事業所とは、短時間労働者を除いた社会保険の被保険者の総数が一定人数を超える事業所をいいます。何人以上の従業員がいれば特定適用事業所になるかは、法律によって定められます。

従業員の数は「法人全体」で評価するので、同一の法人に雇用されていれば異なる営業所ではたらいていても合算されます。営業所ごとの計算ではないので間違えないようにしましょう。法人だけではなく個人事業主であっても要件を満たせば特定適用事業所になります。

特定適用事業所に該当すると、短時間労働者であっても一定要件を満たせば社会保険へ加入させなければなりません。

5-2.特定適用事業所に該当する要件

  • 2022年9月までは常時の従業員(被保険者)数が501人以上となる事業所
  • 2022年10月からは常時の従業員(被保険者)数が101人以上となる事業所
  • 2024年10月からは常時の従業員(被保険者)数が常時51人以上の事業所

なお従業員をカウントする際には「被保険者のみ」を数えます。社会保険に加入しない労働者は上記の計算に入れないので、間違えないようにしましょう。

5-3.任意特定適用事業所とは

小規模で特定適用事業所の要件に該当しなくても、労使協定を締結して届出を行えば雇用する短時間労働者へ社会保険を適用できます。そういった事業所を「任意特定適用事業所」といいます。

5-4.特定適用事業所の判断基準

自社が特定適用事業所に該当するかどうかについては、以下のようにして判断します。

  • 直近12か月のうち6か月以上、従業員数の基準を上回った

ただしいったん基準を上回って社会保険の適用対象となると、その後に従業員数が減って基準を下回っても社会保険制度が適用されます。

6.特定適用事業所になった場合の届出方法や時期について

制度改正などによって特定適用事業所になった場合「健康保険・厚生年金保険特定適用事業所該当/不該当届」という書類を日本年金機構や健康保険組合に提出しなければなりません。届出は「特定適用事業所の要件を満たした日から5日以内」にしなければならないので、遅れないように早めに行いましょう。

年金保険機構から通知がくるケースもある

自主的に届出を行わなかった場合、年金機構の方から「特定適用事業所該当通知」が送付される可能性があります。この場合も要件を満たした短時間労働者を社会保険へ加入させなければなりません。

7.社会保険制度拡大によって企業が対応すべきこと

7-1.担当者の育成や適正な事務手続きの実施

社会保険制度の拡大により、これまでは短時間労働者を社会保険に加入させる必要がなかった事業所にも加入義務が生じるケースがあります。
人事担当者へ新制度を周知させる必要がありますし、会社の事務手続きのフローにも変更が必要となる可能性も考えられます。社会保険への加入を怠ると罰則が適用されるおそれもあるので、くれぐれもそういったことのないよう迅速に対応しましょう。

7-2.従業員への周知

従業員への周知も必要です。突然社会保険に加入させられて困惑する従業員が発生しないよう、十分説明を行いましょう。

DUONでは企業法務に力を入れており、顧問企業などへ法的なアドバイスや法改正内容の説明などを行っています。常に弁護士のアドバイスを受けて経営していれば、知らず知らずのうちに法律に違反してしまうリスクを大きく軽減できるものです。
社会保険制度をはじめとして法改正の内容が気になる場合には、お気軽に弁護士までご相談ください。

この記事は弁護士が監修しています。

片島 均(弁護士)弁護士法人法律事務所DUON
茨城県弁護士会所属(登録番号:42010)

交通事故、相続、借金破産、離婚、刑事事件、不動産、企業法務(労働問題)など幅広い分野に対応。
代表を務める弁護士法人法律事務所DUON はほぼ全ての分野の法律問題をお取り扱いしています。全体の案件数としては、地域柄もあり「離婚事件」や「交通事故事件」「破産事件」「相続問題」等のお取り扱いが多いですが、法人・事業者様の労使問題等にも力を入れており、特に地元の中小企業の経営者様を中心にご相談いただいております。

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