問題社員・モンスター社員への基本対応

社内に問題社員やモンスター社員を抱えていると、経営者にとって大きな障害となります。とはいっても、いったん雇用契約を締結してしまったら簡単には解雇できません。

今回は問題社員やモンスター社員への効果的な対処方法を弁護士の視点から解説します。社内に問題社員を抱えてお困りの経営者さまは、ぜひ参考にしてみてください。

1.問題社員、モンスター社員への基本的な対処方法

問題社員、モンスター社員とは「無断欠勤や遅刻が多い」、「協調性がなく周囲とトラブルを起こす」、「上司の指示に従わない」「セクハラやパワハラ」などの問題行動を繰り返す従業員です。
改善するよう指導しても効果がありません。会社としては、対応に苦慮しているケースが多々あります。

以下の手順で対応を進めていきましょう。

1-1.定期的な面談を実施

問題社員対策としては「そもそも問題社員、モンスター社員を出現させない」ことが重要です。

具体的な方策として、定期的に従業員全員との面談を実施しましょう。
上司と直接で会って話をする機会が頻繁にあれば、従業員は会社の考え方や目指すべき方向性などを理解できるので、「モンスター化」を防ぎやすくなります。
ふだんからやり取りして人間関係ができていれば、注意や指導もスムーズに行えますし、社員の側も指摘を受け入れやすくなるでしょう。

1-2.注意や指導により改善を目指す

問題行動が発覚したら、すぐに注意や指導を行って改善させましょう。放置すると行動がエスカレートしてトラブルが大きくなってしまう可能性があります。

よくあるのは「成績が良いから」といって、問題行動を見過ごすパターンです。しかし成績によって上司が態度を変えると、他の部下が不信感を抱きます。モチベーションの低下や離職を招いてしまうおそれも高まるので、必ず平等に対応しましょう。

「反発されるかもしれない」「退職されると困る」など遠慮するのも好ましくありません。問題行動があれば「その都度平等に注意する」ことが基本の対応となります。

1-3.懲戒処分を行う

何度注意しても改善されない場合には、懲戒処分も検討すべきです。懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒すべきケースや懲戒方法をあらかじめ定めておかねばなりません。

懲戒には以下の6種類があります。

・戒告

問題社員に対し、口頭で注意する方法です。始末書の提出などの具体的な対応は求めません。もっとも軽い懲戒処分です。

・けん責

口頭で注意するとともに始末書を提出させる懲戒処分です。

・減給

一定期間における給料を減らします。ただし労働基準法で減給額の上限が定められているので、その金額を超えて減額してはなりません。

・出勤停止

一定期間出勤を停止させ、停職処分とします。その間は給料を支給しません。

・降格

現在の役職を解き、降格させる懲戒処分です。

・解雇

もっとも重い懲戒処分です。上記の5つではどうしても対応できないときに行います。
また、解雇するときにはその前段階として「退職勧奨」を行いましょう。

1-4.退職勧奨とは

戒告から降格までの解雇以外の懲戒処分を行っても改善できないなら、いよいよ懲戒解雇も視野に入ってきます。ただしいきなり懲戒解雇すると「懲戒権の濫用」として無効になってしまう可能性があるので、注意しましょう。

まずは退職勧奨を行うべきです。退職勧奨とは、従業員に自主的な退職を促すことです。
「退職してはどうか?」と打診し、従業員の方から退職届を提出させて自主退職を実現します。
退職勧奨にもとづく退職であれば、雇用主からの一方的な解雇ではないので、後日「不当解雇」「解雇は無効」と争われる危険が発生しません。

確実かつ低リスクで問題社員の排除を実現しやすいメリットがあります。

退職勧奨の注意点

退職勧奨を実施するときには「退職強要」にならないよう注意しましょう。 退職強要とは、従業員に退職を拒絶する余地を与えずに無理矢理退職させることです。たとえば暴行や脅迫によって退職届や退職合意書に強制的に署名押印させたら、退職強要となるでしょう。

退職強要すると、後日従業員が「退職は強要されたので無効」と主張し、ときには慰謝料請求してくるケースもみられます。

正しい退職勧奨の方法

退職勧奨時には、以下のように進めるのが良いでしょう。

・説得の経緯を記録する

メールや書面で退職を促す場合、それらの記録を残しましょう。口頭で説得するときには録音しておくと良いでしょう。

・威圧しない

上司や経営陣が数人で本人を取り囲み、退職届の作成を強要するなどの対応をすると後日問題になります。複数人で対応するのは良いのですが、威圧的な対応は避けましょう。

・「退職届にサインするまで帰さない」などの対応はしない

部屋に閉じ込めて「退職届にサインするまで帰さない」などと言って迫ると退職強要とされる可能性が高まります。

・しつこくし過ぎない

相手が拒絶しているのに、あまりにしつこく退職を勧めると、後日「退職を強要された」と主張される可能性があります。

適切な退職勧奨の限度や方法がわからない方は、よければ弁護士までご相談ください。

1-5.解雇する

問題社員やモンスター社員へ退職勧奨を行っても拒否される場合、懲戒解雇を検討しましょう。
懲戒解雇できる要件は、以下の2つです。

就業規則に懲戒解雇が規定されている

まずは就業規則に懲戒解雇の規定が必要です。多くの企業ではきちんと対応できていますが、もしまだ規定がない企業や不十分な企業があれば、すぐにでも就業規則を作成・改訂すべきといえます。

懲戒権の濫用にならない

懲戒解雇を行うときには、「処分が行為に照らして重すぎない」ことが必要です。
また「他の従業員、過去の事案との公平性」も重要な要素となります。

後に従業員から「不当解雇」といわれないように、懲戒解雇の要件を満たすかしっかり検討しましょう。

2.懲戒解雇と解雇予告手当について

問題社員、モンスター社員を懲戒解雇するときにも、基本的に30日前の解雇予告が必要です。日数が不足するなら、不足日数分の解雇予告手当を払わねばなりません。

解雇予告手当の支払を免れるには、事前に労働基準監督署へ申請して「除外認定」を受けなければなりません。認定を受けていないのに解雇予告や解雇予告手当なしに懲戒解雇すると、違法になってしまうので注意しましょう。

除外認定には数週間の日数がかかります。懲戒解雇を検討しているなら、早めに労基署へ申請を行い準備してください。

3.懲戒解雇と退職金について

懲戒解雇した場合、就業規則に「懲戒解雇された従業員には退職金を支給しない」と規定していれば退職金を支給する必要はありません。
ただし全額不支給にできるかどうかは別問題です。従業員の問題行動が、これまでの貢献をすべて無に帰するほどのものでなければ、「一部は支給しなければならない」と判断される可能性があります。

4.問題社員を解雇できる基準について

問題社員やモンスター社員を解雇できる基準を、パターンごとに大まかに示します。

4-1.無断欠勤、遅刻

社員が無断欠勤を繰り返す場合「2週間以上の無断欠勤」が目安となります。2週間以下であれば「懲戒解雇は行きすぎ」と判断される可能性があります。
単に遅刻や早退が多い程度では懲戒解雇まで認められないケースが多数です。

4-2.経歴詐称

資格や職歴などの経歴を詐称した従業員の場合、その資格や職歴が採用の決定的な動機となった場合には解雇できる可能性があります。
一方で、特に職務遂行に大きな影響を及ぼさない資格や職歴の場合、解雇は認められにくいでしょう。

4-3.上司の指示に従わない、協調性がない

上司の指示に従わない、協調性がない従業員の場合、問題行動の程度によって懲戒解雇が認められるかどうかが変わります。
上司に暴言を吐き続け、何度注意されても改善せず指示に従う意思がないことを明言しており、周囲の同僚にも悪影響を及ぼしているようなケースでは、懲戒解雇が認められやすいでしょう。
なお上司による指示が「正当なものであること」も当然、必要条件となります。

4-4.セクハラやパワハラ

セクハラやパワハラの場合、悪質性や従業員の態度によって懲戒解雇できるかどうかが異なります。
セクハラでは、常習性があり暴力的にキスや性行為を強要したり、上司が部下へ男女関係を迫ったりする悪質なケースでは懲戒解雇が認められる可能性が高くなります。

パワハラでは、過去にも懲戒処分歴を受けているのに反省なく繰り返しているケース、被害者が多数なケースなどで懲戒解雇が認められやすくなります。

問題社員やモンスター社員へ対応するには、法的に正しい手順をふむ必要があります。対応に迷われた方は、お気軽に弁護士までご相談ください。

この記事は弁護士が監修しています。

片島 均(弁護士)弁護士法人法律事務所DUON
茨城県弁護士会所属(登録番号:42010)

交通事故、相続、借金破産、離婚、刑事事件、不動産、企業法務(労働問題)など幅広い分野に対応。
代表を務める弁護士法人法律事務所DUON はほぼ全ての分野の法律問題をお取り扱いしています。全体の案件数としては、地域柄もあり「離婚事件」や「交通事故事件」「破産事件」「相続問題」等のお取り扱いが多いですが、法人・事業者様の労使問題等にも力を入れており、特に地元の中小企業の経営者様を中心にご相談いただいております。

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