労働保険(労災保険・雇用保険)の手続き

人を1人でも雇用したら「労働保険」へ加入させなければなりません。

労働保険とは労働者のための保険で「労災保険」と「雇用保険」の2種類が含まれます。
どちらも強制加入であり、加入手続きを怠ると違法状態になってしまうため、従業員を雇ったら速やかに届出を行いましょう。

今回は労働保険(労災保険と雇用保険)の内容や手続き方法を解説します。

2種類の労働保険

労働保険は「労働者のための保険」であり、労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険の2つを意味します。

労災保険は労働者が業務に起因して、あるいは通勤退勤中にけがや病気、後遺障害が残ったり死亡したりしたときに本人や遺族が補償を受けられる保険です。

雇用保険は雇用の促進や労働者の生活安定をはかる目的で、労働者が失業したときや再就職できたときの給付金や資格取得の支援金など、さまざまな補助や手当を受けられる保険です。

従業員を雇用したら、雇用形態に関係なく労災保険と雇用保険の両方へ加入させなければなりません。正社員はもちろん、パートやアルバイト、契約社員なども労働保険の適用対象です(ただし雇用保険の場合、1週間の労働時間が20時間未満であれば加入の必要がないなど、一部例外があります)。

労働保険が適用される事業所

労働保険が適用される事業所を「適用事業所」といい、適用事業所は「一元適用事業所」と「二元適用事業所」に分類されます。
一元適用事業所は労災保険と雇用保険に一括で加入する事業所、二元適用事業所は労災保険と雇用保険にそれぞれ別手続きで加入する事業所です。

多くの事業者は「一元適用事業所」に分類されます。
二元適用事業所の典型例は以下のようなものです。

  • 建設業(建設工事に関わる労働者)
  • 農林畜産水産、養蚕業
  • 港湾運送業(港湾労働法が適用される場合)
  • 都道府県や市町村、それに準じるものの行う事業

なお建設業であっても、二元適用となるのは「建設工事に関わる労働者」に限られ、総務や経理などの工事作業をしない従業員は一元適用です。建設業者や港湾労働者を雇用する会社の労働保険加入方法は、一般的な一元適用事業所より複雑になりやすいといえるでしょう。

労災保険への加入が必要な事業所と方法

労災保険は「人を1人でも雇用したら全員について加入させなければならない強制保険」です。労働者の雇用形態、労働時間に関係なく、全員を加入させなければなりません。
雇用保険と異なり、週の労働時間が20時間未満や臨時雇いの従業員などであっても労災保険への加入は義務です。

労災保険への加入手続き方法

労災保険への加入手続きは管轄の労働基準監督署にて行います。
「労災保険成立届」を作成し、労働基準監督署へ提出しましょう。
必要書類として会社の「履歴事項全部証明書」が必要です。
届出の期限は「従業員を雇用した日から10日以内」なので遅れないよう注意しましょう。

概算保険料の申告と納付

従業員を労災保険へ加入させたら、保険料を納付しなければなりません。
従業員を雇い入れてから50日以内に「概算保険料申告書」を労働基準監督署または都道府県の労働局、あるいは日本銀行へ提出しましょう。
申告だけではなく、同じ期間内に概算保険料を納付する必要もあります。

労災保険に加入しなかった場合のリスク

もしも従業員を雇ったにもかかわらず労災保険への加入手続きをしなかったらどのようなリスクが生じるのでしょうか?

保険料を追徴される

労災保険への加入は事業者の義務です。それにもかかわらず加入手続きをしていなかった場合、過去にさかのぼって労災保険料を徴収されます。
ただし追徴される期間は過去2年分が限度です。

追徴金が加算される

保険料を追徴されるときには、未納労災保険料の10%が追徴金として加算されます。
本来納めるべき保険料より高額になってしまうリスクがあります。

労災給付金を徴収される

労災保険未加入の状態で労災事故が発生した場合でも労災保険は適用され、被災した労働者へ治療費や休業損害、後遺障害に対する補償などが行われます。

ただし事業者には労災補償の負担を求められます。事業者の「重過失」によって未加入となっていた場合には補償金額の40%、「故意」に労災保険へ未加入となっていた場合には労災給付金の全額を負担しなければなりません。

重大な労災事故が起こると数千万円以上の莫大な労災補償が行われるケースも少なくないので、零細事業者にとっては極めて大きな負担となるでしょう。

労災保険加入後の手続き

労災保険へ加入後、労災事故が起こったら労働者による給付金の申請手続きに協力する必要があります。

  • 療養補償給付
  • 休業補償給付
  • 傷病補償給付
  • 障害補償給付
  • 介護補償給付
  • 遺族補償給付、葬祭料
  • 特別支給金

平常時における定期健康診断や衛生管理などについての報告も必要です。

労災隠しは違法

業務災害が起こったときには、保険金請求とは別に労働基準監督署へ事故の内容や被災状況を報告しなければなりません。これを「死傷病報告」といいます。死傷病報告をしない「労災隠し」は違法で50万円以下の罰金刑が科される可能性もあります。

ただし通勤災害の場合、死傷病報告の義務はありません。

雇用保険の加入が必要な事業所と方法

雇用保険は労働者が失業した場合の失業保険や再就職手当、資格取得のための支援金などが支給される保険です。
事業主の業種や業態、雇用形態を問わず基本的には人を雇用するすべての事業所に適用されます。

ただし労災保険とは異なり、従業員を雇用したからといってすべての場合に加入義務があるわけではありません。

雇用保険への加入が必要な労働者と不要な労働者

以下の労働者は適用除外となり、雇用保険に加入させる必要はありません。

  • 1週間の労働時間が20時間未満の短時間労働者
  • 31日以上継続雇用する見込みがない
  • 雇用期間が4ヶ月以内、あるいは1週間の労働時間が30時間未満の季節労働者
  • 学生

アルバイトやパート、契約社員などの「雇用形態」ではなく「週の労働時間」や「雇用見込期間」によって雇用保険への加入義務が判断されます。

雇用保険への加入手続き方法

雇用保険へ加入するには、管轄の「公共職業安定所」へ「雇用保険適用事業署設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。
添付書類として会社の「履歴事項全部証明書」が必要です。
期限は従業員を雇い入れて雇用保険適用事業所となってから10日以内なので、遅れないように提出しましょう。

なお二元適用事業所の場合には、労災保険とは別途雇用保険についても「保険関係成立届」を公共職業安定所へ提出し、概算保険料申告書を提出して保険料を納付しなければなりません。

雇用保険加入後の手続き

雇用保険に加入させた後、従業員が退職するとハローワークへ被保険者資格喪失届を提出し、離職票を受け取る必要があります。
離職票は元従業員が失業保険(雇用保険の基本手当)を受け取るのに必要な重要書類なので、速やかに申請取得して労働者へ渡しましょう。

従業員が育児や介護のために休業する場合には育児休業給付金や介護休業給付金の申請をしなければなりません。60歳になった従業員を継続雇用する場合には「高年齢雇用継続給付」の申請が必要になります。

労働保険の更新について

労働保険は毎年更新されるので、1年に1回更新手続きをしなければなりません。
管轄の都道府県労働局や労働基準監督署で郵送や電子申請にて受け付けてもらえます。

労働保険の手続きを専門家に依頼するメリット

労働保険が適用される場合、必ず期限内に届出をしなければなりませんさまざまな書式の書類の作成や提出が必要となり、煩雑で手間がかかります。
期限がある届出事項も多く、故意ではなくても遅れると高いリスクが発生します。
専門家のアドバイスを受けながら進めると、知らず知らずの間に違法状態になるリスクを避けられますし、手続きを任せてしまえば手間もかかりません。

法改正や制度改正にも適切に対応できますし、労基署による行政調査が入ったときにも専門家が立ち会えるのでご安心いただけるでしょう。

茨城県の事業所で労働保険への加入や対応が必要な事業者の方がおられましたらDUONがサポートいたします。お気軽にご相談ください。